僕は、入店希望のキャストを面接するようになった。
女の子は高収入求人媒体をみてきたり、HPをみてきたり、スカウトマンからの紹介によって行われる。
浅地さんと面接のシュミレーションを何度も行った。
その際、浅地さんは強面のくせして、
女の子のぶりっ子の真似をしながら行うから、笑いをこらえるのが大変だった。
浅地さんは大真面目だったようで、笑うと普通に怒られた。
これは流石にずると思った。
そして、先輩ボーイの面接の隣に置物のように座り、面接を見学した。
これを1週間位繰り返して、面接デビューになった。
初めは、お断り面接からだ。
お断り面接とは、外見で一発不採用の面接のことだ。
水商売の面接は、かなり神経質だ。
キャストさんはとても繊細なので、面接でのふとした一言でまだ築いていない信頼を一気に失う。
築いていないのに失うのだ。
もう取り返せない。
いま業界で面接を担当している人は、よく注意してほしい。
わかっている人は少なすぎる。
そのため、僕の面接デビューはお断り面接からスタートとなるわけだ。
船橋は、今まで幾多の成功実績を積んできている。
心の中で、楽勝だと思って臨んだ。
ここで面接の大まかな流れを紹介する。
・女の子が登場したら、面接部屋に通し、お茶を出す
・身分証を預かり、コピーをとる
・その間に面接シートなるものを記入しておいてもらう
身体的なプロフィールと、志望動機等、夜版履歴書のようなものだ
・身分証を返却し、女の子がプロフィールシートを記入し終えたら面接を開始
・お店のシステムの説明、シフトの希望、合否判断。
となる。
上記はかなり基本的なもので、本来この流れをこなしながら女の子の心をがっつり掴むのが”出来る面接官”だ。
今船橋が面接したらおおよそ、1時間程度かかる。いやかける。
その1時間で女の子はやる気に満ち溢れ、昼職をも退職して店で本気で働こうと思ってしまう危険性すらある。
夜の世界で初めてつまずく船橋
しかし、当時の船橋のこの『お断り面接』は15分足らずで終わってしまう。
全く何も話せなかった。
事務的に進めて、そのままサラサラ終わってしまったのだ。
得れた情報は、女の子の名前、年齢、身長、体重、バストカップ、住まい、現在の職業だ。
こんな面接では、ロボットが行っても同じだ。
船橋は初めて壁に当たった気がした。
みかねた、浅地さんは船橋を求人部に面接の勉強に行かせた。
僕が在籍していたグループは求人部で面接をして、
各店舗に女の子が振られるパターンと、店舗に女の子が来て面接をしてその店舗で働くケースがある。
船橋は面接のプロ集団である求人部に出向くことになった。
ここで一つ驚いたことがある。
求人部にいったら、面接の修行期間は求人部の仕事だけかと思いきや
昼過ぎから求人部に行き、面接があらかた終わる21時くらいには店舗に戻り普通に店舗で仕事をするのだ。
ブラック企業もビックリする。
船橋は、ビックリはしたが苦痛ではなかった。
長時間やればやるほど、他との差を引き離せるからだ。
求人部に行くと、部長が爽やかに言った。
『浅地から聞いてるよ、面接は女の子のカルテを作るんだよ』
船橋は、船橋なりに理解した。
船橋なりに理解したのに、一向に面接時間が増えない。
船橋が面接をした子の面接シートをみて、
求人部長が、そのあとその女の子に話に行き必要な情報を聞き出す日々が続いた。
屈辱だった。
女の子からしても、
「船橋って人に面接をしてもらった意味があるのか?」
と不信感があったに違いない。
その節は申し訳ありません。
一ヶ月ほど経っただろうか。
これまでのスピード出世から見ると、面接一つに一ヶ月はやっぱり壁だったのだろう。
船橋は完全に開花した。